雑誌経済界の 8月3日号が「弁護士業界」を特集している。
「多重債務処理や日弁連の規制をめぐって、守旧派・革新派の対立」という取り上げ方をしている

(経済界 8月3日号)
日弁連宇都宮会長へのインタビューは、弁護士の既得権益を守るという批判にどうこたえるのかという点も盛り込んだものになっており興味深い。
とくに 宇都宮会長は就任後NHKのクローズアップ現代に出演し、多重債務処理をめぐっての 報酬トラブルに関連して、報酬規制の復活 と広告規制を考えたいと 発言していたが、今回のインタビューではトーンが後退している印象をうける。
○弁護士のあたらしい取り組みにたいして懲戒権により、妨害は?
「 広告も解禁されているし、報酬規制も事実上撤廃されているので、日弁連や弁護士会が圧力をかけるというようなことはありません。あたらしいことに縛りがあるというようなことはありません。」
○ 多重債務整理事件についての直接面談指針について
「・・・生活再建をしないと本当の解決にならない。破産申し立てをして免責決定をうければ多重債務からは解放されるが、失業者に突然仕事が見つかったり、病気の方が治ったりするわけではありません。
依頼者の対応をEメールや電話1本で済ませてしまえば、その後闇金融のターゲットになって今う可能性もたかいのです。ですから生活保護申請を一緒におこなうことや生活再建のアドバイスを与えることが重要になります。
・・・・専門家である弁護士と顧客の間には圧倒的に知識・情報の格差があるので、利用者を保護するのに一定の規制が必要なのです」
日弁連は7月16日日に 多重債務処理の指針が守られていないとして、今年度中に会則にランクアップして違反行為を懲戒の対象となるようにすることを理事会に提案し確認した。
しかし、この詳細はあきらかではなく、多重債務処理の定義の問題や直接面談の根拠も不明である。
その意味では、本特集に語られた、宇都宮会長の「多重債務処理に直接面談を求める理由」は現在の新会長体制の執行部の考えをまとめたものとして時宜を得たインタビュー記事と思う。
ただこのインタビューの内容でも次の点が疑問に残る
● 弁護士の仕事の範囲について、行政のやるような範囲(仕事探し、病気対応、生活保護申請、など~)もやってる仕事が 「本来の弁護士像」で それを弁護士が目指すべきだということであれば、日本中に何人の弁護士がそのような仕事をしているのだろうか?そもそも消費者は、弁護士にそのような公的扶助的な仕事をきたいしているのだろうか?
●電話面談という通信の手段を直接相談の質に結びつけることへの、議論がされていない。通信手段の変化やその情報量の拡大との関係で、どの部分が相談の質の低下に結びつくのかという議論が、欠けている
●報酬既定の存在の理由は、専門家である弁護士と顧客の間の知識情報の格差があるため、利用者保護のために規制はやむえない、としている。しかし、情報格差を生んできたのは、広告規制であり、そのために 紹介者を通じて、弁護士の先生に紹介してもらえば、「よくわからないのでよろしくお願いします」という世界を作り上げてきた歴史がある。そのうえで、現在広告規制を議論しているのだから、再び情報格差の常態化を日弁連自体が方向として持っていると思われるふしもある。
つまり、「広告規制によって生みだしてきた情報格差が、弁護士報酬が依頼者国民から批判されずに温存されてきた大きな理由」という点に対して答えられていない。

解説記事は、弁護士会の守旧派 革新派の考え方の違いに相当距離があることを指摘している。債務整理処理問題などでの直接面談要求の背景などは、解説記事のとおりの側面があると思う。
ただ革新派といってもこの特集で取り上げられたのは、いわゆる「サルでもできる弁護士」で有名な人物ほか常連だ。革新派といわれる人たちの主張はこれまで通りのものとなっている。
この記事で表面化させたようなことは棚上げして、規制緩和や情報公開の時代に、実はノスタルジーにひたることも許されず、一定にお客への説明を拡大しながら、業務努力を続けている弁護士が多いのではないか?
自分を 「サル」とも思っていないし、一方で過去のような規制に守られて事務所を運営する時代が来るとも思っていない。そのような弁護士が全国にたくさんいて、ホームページをつくり、そのなかで仕事を説明し、お客を獲得していっている。しごとがらHPを見ることも多いが、この間弁護士のホームページは増えており、また、どんどん内容も拡大していっている。
このような弁護士会活動の物言わぬ人たちが、今後弁護士のあり方に大きな影響を与えるのではないかと感じることもある。

弁護士の数は、2009年 26930人。
2008年の弁護士所得平均は 1598人(日弁連)
依頼者国民の目線で、弁護士がどのようにその眼に映っているか、を的確につかんだ人たちが、弁護士業界のながれを作っていくのは間違いないと思う。
時宜を得た雑誌経済界の特集だったと思う。